あおやぎ珈琲

猫とコーヒーと物語のブログ

ちはるさんが、関根くんをつかまえます(前編)

ちはるさんは、会社の隣の席に座っている関根くんのことが好きです。 関根くんは、営業の仕事をしているのですが、取引先との電話では、いつもちょっと大きなことを言ってしまいます。できますよ、と言って納期が近くなったら大あわて、なんてことはしょっちゅうです。ファックスを送ると送り先を間違えます。さがしている書類はいつも見つかりません。 tel.jpg

ちはるさんは、その横の席で「まただー」「まただー」と気をもんでいるうちに、だんだんと関根くんのことが好きになってしまったのです。 残念なことに、ちはるさんは、恋愛がヘタだとまわりの友だちのだれからも思われている女の人です。

さて、ちはるさんは、なんとか関根くんとおつきあいしたいものと考え、意を決して「むし図鑑」を買いました。その「むし図鑑」には、むしのつかまえ方が、それはくわしくのっていたのです。 男の人をつかまえるのに、むしをつかまえる方法を知って何になるのかと思う方もいらっしゃるでしょう。でも、わたしたちが、本当にちはるさんのことを笑う資格があるのか、すこし検証してみましょう。

ちはるさんは、インターネットで、「男心をくすぐる女のしぐさ10」とか「彼女にしたい女の特徴15」とかの記事をよくながめていました。 ある日、こういう記事を書いている人とはどんな人なんだろうと思って、その記事を書いたライターさんのブログを見たのです。

すると、そのライターさんは、失恋したばかりで、ブログにはかなしい言葉が並んでおり、ちはるさんの心は痛みました。男心をくすぐるしぐさを10しっていても、彼女にしたい女の特徴を15しっていても、うまくいかないのが恋というもののようだと、ちはるさんは思いました。 そして、こういう記事は、本当の恋愛に役に立つために書いてあるのじゃなく、恋愛に興味がある人を楽しませるために書いてあるんじゃないだろうか、とさとったのです。 なかなかの推理です。だって、こういう記事って読んでいて楽しいでしょう。本当に役に立つものって、楽しいというよりは、真剣そのものだったりしますもの。 mushi.jpg

だから、「むし図鑑」なのです。これは、楽しませるためじゃなく、本気でむしをつかまえたい子どものために、書かれた本なのです! ちはるさんは、変わり者ですが、このようなひたむきな考えのすえ「むし図鑑」を手に取ったのです。

ちはるさんは、じっくりと「むし図鑑」を読みました。 そして、大きくわけると、むしをつかまえる方法が3つあることを学びました。

1、卵から育てる 2、えさでおびきよせてつまかえる 3、網などで強引につかまえる

は、もう関根くんは卵ではありませんから、無理です。も危険でしょう。すると、がいちばん、確実! というわけで、ちはるさんは、手づくり弁当をもって会社に行くことにしました。

もちろん、料理ができるところを、関根くんに知ってもらうためです。といっても、ちはるさんは料理はあまり得意ではありませんから、たくさん調味料を買いこんで、朝早く起きてようやっとつくりあげたのです。 中編へつづく⇒ちはるさんが、関根くんをつかまえます(中編) 今日は、これでおしまい。