あおやぎ珈琲

猫とコーヒーと物語のブログ

捨てられそうになったふくろう

会社の先輩の三沢(みさわ)さんが引っ越しするといいます。 可奈(かな)は、自分のことを引っ越し上手と思っていましたので、お手伝いを買ってでました。 整理が済んだ本の梱包(こんぽう)、すぐには使わない食器の梱包、引っ越し上手の可奈にとっては、こんなことお茶の子さいさいです。 三沢さんは、手伝ってくれたお礼に、いらないものの中から好きなものをもっていっていいよと可奈に言いました。見ると、捨てるものの集まりのなかに、ふくろうの置き物がありました。手のひらに乗るくらいの大きさで、かわいらしく首をかしげています。焼き物ですが、いかにもふかふかした白い羽根がじょうずに再現されています。 「じゃあ、これください」 と言って、可奈はふくろうの置き物を手に入れました。 可奈は、家に帰ると、さっそくやわらかい布でできたコースターの上にふくろうの置き物をすえて、サイドボードの上に飾ることにしました。 fukurou.jpg

さて、引っ越しが無事に済んだ三沢さんですが、このところずっと会社を休んでいます。理由を他の人にたずねても、みんな言いにくそうにしています。どうやら、体調が悪いようです。 2週間ほどして、ようやく会社に出てきた三沢さんですが、こんどは仕事で大きなミスをして、社長じきじきにおしかりを受けたともっぱらのうわさです。 今まで、大活躍だった三沢さんとは別人のようです。 可奈は、ふと、自分がもらったふくろうの置き物のことが頭をよぎりました。 (もしかして……あのふくろうは、福の神なんじゃないかな。それを手放したから、三沢さんは、大変な目にあってるんじゃないのかな……)

家に帰ると、可奈はふくろうをながめました。相変わらず、ふくろうは首をかしげて、どこともない遠いところをつぶらな瞳で見ています。 (このふくろうが福の神なら、これを三沢さんに戻したら、三沢さんは、もとの三沢さんに戻るかもしれない……) と、可奈は思いましたが、そうすると、可奈はどうなるのでしょう。このふくろうを手放したことで多くの不幸に見舞われるのでしょうか。そう思うと、可奈は足もとがひやっとするのを感じました。さらには、福の神だと思うと、なかなか手放したくなくなるのが人の心というものです。 「そうだ! いい方法がある!」 可奈は、ぱちんと指を鳴らしました。そして、次の日の朝から、このふくろうに、こうお願いをすることにしたのです。 「ふくろうさま、ふくろうさま、三沢さんに幸せがきますように」 手を合わせてそうお願いすると、可奈は会社に出勤します。 すると、失敗続きの三沢さんが、みるみるうちに失敗はなくなり、手がけた商品が大ヒット。社長から、みんなの前で賞をもらうほどになったのです。 (やっぱりあのふくろうは、福の神なんだ……) 可奈はそう思うと、頬(ほお)がきゅっとなって笑顔になりました。 「ふくろうさま、ふくろうさま、世界中のみんなが、幸せになりますように!」 毎朝、可奈がふくろうにそうお願いすると、いつものようにふくろうは首をかしげて、 (こまったなあ) という顔をしているのでした。 ----------------------------- 家にあるふくろうの置き物を題材にして、お話をつくってみました。 今日は、これでおしまい。