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猫とコーヒーと物語のブログ

おもしろい民話

長崎の小浜(おばま)に行ったときに、温泉宿に「絵本 おばまの民話」という本が置いてありました。(発行 小浜町 小浜町教育委員会) 地方の民話っておもしろそう~と思って読んでいて、すごいのに当たりました。 タイトルは「エビとフグとタコ」。 「昔、エビさんが 曲がった腰をなんとかのばせないものかと思って、小浜温泉に 湯治に出かけました。」 という具合に始まります。 えっ、と思いました。ふつう、お風呂のシリーズというのは、「にんじんとごぼうとだいこん」のように、体を洗わなかったからごぼうは体がまっくろ、洗い過ぎてだいこんは体がまっしろ、お風呂につかりすぎてにんじんは体がまっか、というふうに、なぜその野菜がその色かという説明になっているはずです。 この物語は方向が逆なわけです。エビが曲がっている体を治したいという。 エビがお湯に入ったら、ゆだっちゃうんじゃ…ゆであがっちゃうんじゃ…という不安もよぎります。

そこへ仲間が登場。フグがやってきて、温泉で細い腹を太くしたいと言います。 さらにタコがやってきて、温泉で足にイボができたのを落としたいと言います。 さらに「豆腐のカス」がやってきて、こう言うのです。 「おら、粉になっちょるけん、また、元ん豆な ならんじゃろかと 思ち、湯治行きよっとばない。」

「豆腐のカス」って「おから」ってことでしょう。 温泉に入ったからといって、豆に戻るのは、むりだよ。 それより、溶けちゃうよ。 「豆腐のカス」の状態で歩いているのが奇跡なんだから、その奇跡をキープしたほうがいいよ! crow.jpg

さて、物語は四者が温泉に向かうところで、カラスが登場します。 カラスは、エビに何か芸をしてみろ、と挑発します。エビはできないといって断ります。 カラスは、次はフグに芸をしてみろと言います。フグも断ります。 タコは、木に登って一本足でぶらさがり、「しだれ柳ばなーい。」といって、芸を見せます。 そして「最後は、豆腐のカスさんの番です」って、豆腐のカスに芸とか…むり。 もう、読んでいてハラハラします。 豆腐のカスは「おら、粉に挽かれとっとじゃるけん、なーんもできんと。…」と断りますが、カラスに食い下がられ、歌を歌って勘弁してもらい、物語は終わります。

いやーすごい。タイトルで「エビとフグとタコ」といっておきながら「豆腐のカス」が出てくるところもすごいし、「豆腐のカス」が湯治に行って豆に戻ろうとするという発想がすごい。 この民話集は、他は「ああ、ありそうだな」という聞いたことがあるような、読んだことがあるような話が多いのですが、このおはなしだけ、異彩を放っていました。 こういう無理な話を読ませてしまうのって、すごいなあ。そして、それを大事にしている地元の方たちがすごいと思います。

理屈が通った話というのは、頭で納得できるような気がするけれど、なんだか身体は納得していない場合があるような気がします。このおはなしは、キャラクターがみんな控えめで、自信がなさそうに描かれていて、そこがとてもいきいきしているのです。カラスが意地悪なのは、権力者の象徴かもしれませんが、みんなの対応がとってもけなげ。タコの「しだれ柳ばなーい」なんて、かわいげが漂います。 起承転結とか、どんでん返しとかなくっても、こういうキャラクターの感触を読ませるというのもいいなあと思ったのでした。

今日は、これでおしまい。