クリップになりたい
今日は、クリップのおはなしです。
クリップ、とは、最近ぽっと出たばかりの流行りものでもなんでもありません。
あの文房具のクリップです。
会社のひきだし、家の中のなんか道具っぽいものを置くところに、
必ずちょろっとある、あれです。
このクリップですが、自分で買ったのではないものが必ず含まれています。
誰かの送ってきた書類、誰かの送ってきた手紙、それにくっついてきたものたちです。
今まで「先日送った書類についていたクリップを返却してください」と言われたことはなく、
また「要返却」と書いてあるクリップも見たことがないので、
クリップについて、みんな所有権というものをほとんど意識していないと思われます。
また、「P社はQ社の下請けだから、Q社にクリップを返してもらえなくて
P社は泣き寝入りしている」とか
「お金持ちのY氏にばかりクリップが集まる」という話は聞きませんから、
権力やお金の影響も受けない存在だと考えられます。
細い金属を二重に丸めたら、ちょっと書類をはさむのに便利だよ、と気づいた人。
天才だと思います。
のちに「ダブルクリップ」という強敵が現れるのですが、
どんなに小さな「ダブルクリップ」が発売されようと、
あの「今、ちょっとだけ、とまっていて欲しい」という人間の、うつろいやすい、
そして、はかない願いをかなえるのには、クリップが最強なのです。
とまっていて欲しかったけど、今、外したい、とくれば、クリップは指で押されるだけで
紙をすべって簡単に外れ、わたしたちの欲求をかなえてくれます。
また、クリップは旅に出ます。
A社とB社の間を行ったりきたりしているクリップもあるでしょう。
回覧板の書類に使われて、町内をぐるぐる回っているクリップもあるでしょう。
遠くへの手紙に添えられて、飛行機や船に乗るクリップもあるでしょう。
Gさんの手元から離れ、Uさんのところへ行き、そこから県外のEさんのところへ行き、
さらにWさんの手に渡り、もうGさんからは関係のないクリップになったかと思いきや
WさんはGさんと趣味のサークルが一緒で、全国から集まる集会でなんと
クリップは再びGさんの手元に!
という誰も気づかない劇的な再会もあるでしょう。
主を決めず、権力やお金の力にも左右されず、自由に旅をしているクリップ。
でも、どんなクリップでも、必ず人から人へ渡されているということに、
温かみを覚えずにはいられません。
クリップは人類全体が共有している文房具、かもしれませんね。
今日は、これでおしまい。