あおやぎ珈琲

猫とコーヒーと物語のブログ

髪の毛が妙にまっすぐになる美容院の話

美容院へ行ってきました。

この美容院が不思議な美容院なのです。

ホニャ沢(ほにゃさわ)さんが一人でやっています。

ホニャ沢さんというのは本当の名前ではありません。

会計のレシートにきちんと担当:■沢紗江子、と名前が書いてあるのですが、

この■のところの文字が難しくてわたしには読めないのです。

いつも帰ったらこの字の読み方を調べようと思うのですが、

この美容院が少し遠くて、電車に揺られている間に、

調べようと思ったこと自体を忘れてしまうのです。

だから、わたしは心の中でこの美容師さんのことをホニャ沢さんとよんでいます。

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「ひとりでやってらっしゃるんですか?」

と一度聞いたことがあるのだけど、そのときは他にスタッフがいるようないないような返事でした。

完全予約なので、お客もひとりです。

なのに、美容院全体はとてもひろくて、6~7人はゆったり入れる規模なのです。

その空いた席にはぬいぐるみが座っています。

その美容師さんは、とても腕がよくって、わたしの長年の苦しみを救ってくれた人でした。

本人の性格に似て、手のつけられない髪でした。

ひどい天然パーマで、ストレートパーマをかけても、2~3か月したら、

生命のよろこびをすぐに歌いだすんです。

よろこびいさんで、ぐるぐる回りだすんです。

前に行っていた美容院でいつも担当してくれていた美容師さんは、わたしの髪を見て、触れて、

「ふつう、じゃないね」

と言っていました。

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でも、このホニャ沢さんは、違っていました。

初めてストレートパーマをかけてもらいに行ったとき、まずわたしの髪をじーっと眺めました。

そして、細くて長い指で根元から毛先までゆっくりとすべるように触りました。

それから、念入りに薬を選んで、髪につけていきました。

コテで伸ばしたり、洗ったり。また薬をつけたり、伸ばしたり。

さあ、3時間たったら、できあがりです。

その仕上がった髪の、うるつや具合といったら!

自分の髪に触れてあれほど驚いたのは初めてでした。

ナンデスカコレハ。コノウルツヤノカミハ。

「あなたの髪ですよ」

とは、ホニャ沢さんは言いませんでしたが、あのギリシア神話の神々のごとく自由で奔放な髪を

おとなしくさせてしまった技術に、わたしはうなりました。

もっと驚いたことに、そのまっすぐ具合が持続するのです。

たいてい1か月くらいすると、毛先がはねだしていたのに。

あの人は、魔法使いなんじゃないでしょうか。

いや、プロ、とはこういうのを言うのでしょう。まるで違う次元に、人を連れて行ってくれる人。

こういうわけで、わたしはそろそろ魔法が解けてきたなー、と思ったら、

あの美容院に行って、ぬいぐるみに混じって、3時間の魔法を楽しむのです。

今日は、これでおしまい。