古本屋のおはなし
家から電車で数駅行った街に、一軒の古本屋さんがあります。
店の一角には特設コーナーがあり、そこには時節に合った本や絵本が並べられています。
その古本屋に初めて行ったときに驚いたのは、「これは…わたしが欲しかった本じゃはないか!」という本が何冊も並べられていることでした。ずっと疑問に思っていたこと、ずっと知りたいと思っていたこと、そうこうことが書いてある本が、その古本屋にはずらりと並べてあったのです。
新刊を並べてある本屋は、なんといったらいいのでしょう。今、話題になっていることや、人が興味を引きそうな本を並べてあります。しかし、この古本屋さんには、人が興味を引きそうなものというよりは、人が疑問に思っていることの答えになるような本が並べてあるのです。
人の疑問の答えになるような本というのは、どうやって集めるのでしょう。ふしぎです。でも、それが本のひとつの大きな役割でしょう。
だから、わたしはこの古本屋へ行くと、必ずたくさん本を買ってしまいます。
レジに行きますと、年配の女性か、男性か、あるいは若い男性が会計をしてくれます。
おそらく、おかあさん、おとうさん、息子の3人と思われます。
おかあさんがレジをしているときは、「ポイントカードお持ちですか」ときまってたずねられます。わたしが持ってなくて、でもいりませんというと、とっても驚いたふうな「ポイントカードがいらないですって」という顔をされます。きっと、ポイントカードをつくったのは、このおかあさんだと思います。
おとうさんは、といいますと、わたしが本をレジに持っていっても、自分の仕事にいっしょうけんめいで、なかなか気づいてくれません。わたしはおとうさんの仕事がひと段落するまで待っています。ここは、せかせかして買い物する古本屋でもないのです。おとうさんは、はっとわたしに気づくと、おや待たせてしまって、という感じでレジを打ってくれます。
さてさて息子は、といいますと、いつもレジの席に座って本を読んでいます。本が好きな古本屋さんなんて、子どもがお菓子の家に住んでいるのと一緒です。さぞかし楽しんで読書生活を送っていることでしょう。息子は、わたしが本を出しますと、「ポイントカードお持ちですか」とたずねてきますが、わたしが「持ってませんけど、いりません」と言うと、そうでしょうという感じでうなずいて、レジを打ってくれます。きっと、息子はポイントカードにそう肩入れはしていないのです。
いったいこの3人うちの誰がこの人々の答えとなるような品揃えの本を集めているのかは分かりません。でも、そのうちの誰か1人がそういった本を集めるこつを知っていて、ほかの2人に教え、結局3人の力によってこんな本屋ができあがっているのかもしれません。
ポイントカードだって、きっとこの店にはなくてはならないしくみなのでしょう。
こんな店ですから、わたしはあの街に行くと、自分の答えを求めて、またあの古本屋に寄ってしまうのです。
今日は、これでおしまい。