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猫とコーヒーと物語のブログ

川端康成の手紙

きのう(2014.7.9)の東京新聞朝刊に、川端康成(かわばたやすなり)が初恋の相手へ宛てて書いた直筆の手紙が、掲載されていました。
「僕が十月の二十七日に出した手紙見てくれましたか。君から返事がないので毎日毎日心配で心配でぢつとして居られない。手紙が君の手に渡らなかつたのか、お寺に知れて叱られてゐるのか、返事するに困ることあるのか、もしかしたら病気ぢやないか、本当に病気ぢやないのかと思ふと夜も眠れない。」
とはじまる手紙は、早く会いたくてあれこれ気を回し、手を回し、これでもかと相手を心配する思いのたけがしたためられています。
手紙を読んでいる他人のわたしが「あれまあ」と心配になってくるような愛しようです。
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「とにかく早く東京に来るやうにしてください。恋しくつて恋しくつて早く会はないと僕は何も手につかない」
「僕は君の云ふ通りにして上げる」
「東京に来てからのことで心配なことあるなら、それも君の思ふ通りしてあげる」
「厭なことなぞ決してさせない」
「父様の方は安心してゐなさい」
「台湾の方も僕が責任持つて好くしてあげる」
「国へも帰してあげる」
「君の思ふ事何でも承知してあげる」
と、すべてささげてしまっているのです。もう、あげるものがないくらいです。
手紙の相手は、伊藤初代(いとうはつよ)さんという方で、初代さんが十五歳で川端康成が二十二歳だったときに二人は婚約しています。
愛情はしぜんにこころに湧いてくるものですけど、湧けば湧くほど半分くらいは隠しておかないと、相手は逃げていってしまいます。こんなに愛したらどうなっちゃうの、と思いますが、案の定、二人は婚約の約束をのちに破棄しています。この手紙のとおりですと、全然、隠せてませんものね。逆に全部、出ちゃってますものね。
でも、壊れてしまったかもしれないけど、成就しなかったかもしれないけど、手紙にある愛の言葉は、読む人の胸にせまるほど強い力をもっていると思います。
今日は、これでおしまい。