あおやぎ珈琲

猫とコーヒーと物語のブログ

玉にはたまげた

作家の猫平凡社)という本を読みました。
作家に飼われた猫たちがいろいろ紹介されています。
プロセスチーズには見向きもしないけど、ナチュラルチーズはおいしそうに食べる、ヘミングウェイのネコ、ボイシー。人間の意思を理解し、中島らもさんに尊敬されていたネコ、ミケ。室生犀星(むろうさいせい)さんとくつろいで、火鉢のふちに器用に両手をひっかけてあったまるネコ、ジイノなどなど。作家に愛され、作家とともにくらした猫たちのエピソードが満載で、とっても楽しく読みました。
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中でも、一番ぎょうてんだったのが、武田泰淳(たけだたいじゅん)さんのネコの「玉」のエピソードです。娘さんがその様子を回想されています。
 床に両足を投げ出し、古い革ベルトで床を叩き、「玉ちゃん、ピシピシ、鞭(むち)でピシピシだよー」。すると、すっ飛んできた玉が「ウギャギャギャ」、鳴きながら両腿(りょうもも)の間に入ってくる。
 私は股間に玉をぴたっと挟む。挟まれた状態で、身を硬くして、じっと待っている玉。興奮のため、尻尾が太い。その玉の大きな背中めがけてベルトを振り上げる。思いっきり叩くわけではない。痛くても気持ちがいい強さ(塩梅がなかなか難しいのだが)。革ベルトががピシッと背中に当たる度に玉は体を震わし、快感を味わっているのだが、十叩き目ぐらいになると、突然、脱兎の如く逃げて行く。我慢できなくなるのだ。それでも、しばらくして、「マゾの玉ちゃん、鞭でピシピシだよ」と呼べば、また、私の股に走り込んで来るのである。
 父は来客中、ビールなど飲んで機嫌がいいと、「うふふふふ、うちの猫はねえ、娘がベルトで叩くと喜ぶんだ。マドなんだなあ。うふふうふふ」と、笑いながら話すことがあったが、入れ歯がユルユルなので、マゾがマドになってしまう。だから、お客さん達は、父が「マド」と言う度に、一斉に窓の方を見て、怪訝(けげん)な顔つきをしていた。
(「作家の猫」による・読みがなはこちらでつけました)
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武田泰淳さんが「猫がマドになっちゃった」と言う度、不思議そうに窓の方を見るお客さん。その様子を想像すると、おかしくてしようがなくなりました。
この行為を指して、猫をいじめているという人もいるかもしれないけど、わたしはそうじゃないと思います。これは、子どもと猫がいろいろ加減をして生み出した、当人たちだけが分かる遊びなんだと思います。ちょっと悪い遊びにはちがいないけれど。
うむむ。こんなネコがいるとは、おどろきです。ネコの奥深さに、さらに気づかされた一冊でした。
今日は、これでおしまい。