猿まわしの子ザルは幸せかい
お祭りで猿まわしの興行が来ていました。若い猿まわし師と、子ザルのコンビです。
子ザルは三歳で、人間でいうと九歳ほどになるんだそうです。
子ザルがぴょこんとおじぎをしたら、ショーの始まりです。
立ち上がって歩いたり、高くかかげられた輪をジャンプしてくぐったり、逆立ちして階段を登ったり降りたり、つぎつぎ技をくり出していきます。
技がうまく決まるたびに、観客からは拍手かっさい!
猿まわし師のほうも、子ザルとうまくかけあいをして、ぐるりと取り囲んだみんなは、おおいに笑っておりました。
ふつうの猿がどんなだか、すぐには思い浮かびませんでしたが、その子ザルは少しやせていて、毛の色が淡く、澄んだきれいな目をしておりました。
子ザルは技のわずかな間に、観客のほうをあちこち見上げて、いろんな人を眺めました。
そうしてするまばたきごとに、わたしは子ザルの「助けて」という意思を感じたのでした。
そう気づいたとたん、どんな大技もどんな笑いも、子ザルの思いには遠いもののような気がして、わたしはその場から離れたのでした。
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動物と人間は、どうやってつきあったらいいんでしょうね。
水族館で行われるイルカショーでは、イルカの「こういうの、得意なんスよーっ!」という気持ちが伝わってくるときがあります。
イルカはもともと海にいてもジャンプしたり、回転しながらはねたりしますしね。
でも、係員の方がイルカにとって気に入らない態度をとったり、機嫌が悪かったりすると、わざと水が大きくはねて係員にかかるようにお腹から着水したりするという話も聞きますから、いつもいつも上機嫌で飛んだりはねたりしているわけでもなさそうです。
その子ザルは、毛の色が淡い猿でした。猫では、淡い色合いの毛の子は大人しくて性格が控えめですから、猿もそうかと思いまして、なんだか余計に哀れに感じたんでした。目も光が失せて怯えていて、とても笑う気にはなれなかったのでした。
小さな猿だからそうなのでしょうか。大人になればふてぶてしく人間を笑わせる、太った色の濃い猿に変わるんでしょうか。
これから先、あの子は、みんなを笑わせて猿まわし師から可愛がられて幸せになれるかな。
それとも、いっしょに全国を興行して回る子ザルの友だちができて、遊んだりして幸せを感じることができるかな。
そういうことが、あの子ザルのこれからに、起こるといいなと思いました。
今日は、これでおしまい。