あおやぎ珈琲

猫とコーヒーと物語のブログ

透明感を思い出す

ファインマンの自伝「ご冗談でしょう、ファインマンさん」を読みました。 ファインマンとは、ノーベル物理学賞を受賞した科学者のことです。

ファインマンにまつわるエピソードは、以前から知っていました。 大学教授から招かれたお茶会で、上品な大学教授の奥さんが紅茶を出して「ミルクになさいますか? それともレモンになさいますか?」と聞いたところ「両方お願いします」と言ってあきれられたとか。

ノーベル賞の授賞式で、国王に失礼があってはいけないと思い、後ろ向きで階段を下りることがあるかもしれないと練習していたら、それを見た友人が気の毒がってバックミラーを贈った、とか。

ファインマンが、がんの手術中に大出血を起こしたことが職場の大学に伝わると、教え子の学生たちがこぞって救急センターに走り、ぜひ自分の血を使ってくれ! と言って献血したとか。

こういうエピソードを聞いて、ファインマンという人物に、透明感のようなものを感じていました。 koutya.jpg

でも、自伝を読んで、それは違うと思いました。 ファインマンは、ひと言でいうと「困った人」です。

ファインマンは、なんでも興味をもったものにはまって、すぐに上達してしまいます。

小さいころ、ラジオが壊れた人がいたので、なんとか直してやったところ、次々に修理の依頼が来るようになり、ラジオにすっかり詳しくなってしまいます。

この性質は、ずっと変わらなかったらしく、物理学が専門なのに生物学や数学に首をつっこんだり、ブラジルで打楽器が上手くなったり、錠前はずしをきわめて、どんな鍵もあけられるようになり、しまいには原子爆弾の詳細が書かれた書類が収めてある金庫の鍵まで開けてしまいます。

いたずら好きのファインマンですが、いたずらにもほどがあるってものです。

この人は、何もこわいものがないようです。 戦時中、原子爆弾の研究にたずさわっていたファインマンには、手紙などにも検閲が入るのですが、わざわざ暗号めいたものを書いていつも呼び出しを受けます。

奥さんも検閲を嫌っていて、いったん書いた手紙をばらばらにちぎってジグソーパズルみたいにして送ったら、検閲官に「われわれに、遊んでる時間はない!」って怒られます。 困った夫婦です。

ファインマンの自伝は、図書館では予約待ち必須。人気があります。 いろいろな、常識とか、形式とか、そういうものにとらわれないところがいいのかな。

相手が誰でもこわがらないで、ものを言ったり、行動したりするのも気持ちがいい。

自伝を読んでいたときは、えー? えー? って思いながら読んでいたけれど、やっぱりファインマンを思い出すときは、透明感のある人として思い出すんだろうな。そんなことを思いました。 今日は、これでおしまい。